保土ヶ谷駅信号所のメカ part2

「保土ヶ谷駅の追憶」で紹介した信号所のメカニズムですが,その後の調査で同駅の連動システムは明治期に設置されたものに端を発することがわかりました.明治32(1899)年発行の帝国鉄道協会会報第2巻「信號聯働器」の項目で紹介されており,ここでは国内に設置された信号連動装置が年代順に書かれています(以下表).

製造年月 据付駅名(現駅名) レバー 製造工場
明治20年 8月 品川 6本 新橋
明治21年 6月 横浜(桜木町) 9本 新橋
明治24年11月 神戸南端 8本 神戸
明治25年 2月 神戸北端 19本 神戸
明治30年10月 米原 9本 神戸
明治31年 5月 大井村(大井聯絡所?→大井町) 10本 新橋
明治31年 7月 程ヶ谷(保土ヶ谷) 12本 神戸
明治31年 7月 神奈川(横浜) 8本 神戸
明治31年10月 大坂(大阪) 25本 神戸
明治32年 1月 神崎(尼崎) 15本 神戸
明治32年 5月 新橋 10本 新橋
明治32年 7月 京都 12本 神戸

これより保土ヶ谷駅は神奈川とともに明治31(1898)年に国内7番目として設置され,東海道線の要衝として最新信号システムが導入されたことがわかります.また同書では設備の紹介例としても「程ヶ谷駅」が掲載されており,構内配線図や信号レバーの図面が添付されていす.この当時は神奈川方面(現横浜駅)と横浜方面(現桜木町駅)の分岐駅としての機能があり,煩雑な信号の設定とポイント切替が必要だったのでしょう.

fig1

程ヶ谷駅構内のポイントと信号の配置図.左上が横浜方面,左下が神奈川方面.東海道本線は対向式プラットホームを通り大船方面へと続いており,島式ホームの上方2線は側線.

同書には,明治20(1887)年の第1号設備はホウキンズというお雇い外人の指導により米国Saxby & Farmerのものを模範として新橋工場で作製とありますが,実際は当時の最新インターロック機構をデッドコピーしたようで,レバー周辺の機構図も掲載されています.

fig2

「THE INTERLOCKING MACHINE FOR HODOGAYA STATION」と記された図面.左はレバーの側面図,右はインターロック機構部の平面図.

fig3

インターロック部の側面図(上)と平面図(下).レバーを動かすと櫛歯状のスライダが水平に動き,これと複数のバーが直交している.バー下部には切欠きの有無があり,レバーを動かす際には全てのバーの切欠部が揃わないと,歯が噛んでしまって動かすことが出来ない.またレバーを転換するとカムによりバーがスライドし,他のレバーのロック条件をも変える仕組み.要するに鍵のような純機械的メカニズムにより,複雑なインターロック(連動)システムが実現されている.

このあたり何とも複雑ですが,簡単なインターロックの例を見てみましょう.下図のような線路配置で下り1番線に列車を入れるとき,場内信号機1を赤に,2を緑に設定します.この時,本線側に開通している転轍機21のレバー櫛歯において,2つ信号機のバーが切欠きの無い位置で留まるように位置合わせしておけば,レバーはバーに邪魔されて側線側に切替不能となり安全です.一方,本線側に開通している転轍機22については,2つのバーが切欠き部で留まる設定にしておけば,1番線側に切り替えることが可能です.これが機械式インターロックの原理で,切欠きの位置をうまく組み合わせることにより,進路の安全を担保します.機械式では信号機と転轍機が増えると櫛歯とバーの数が非常に多くなり,下図のハコで示された部分が複雑な大型メカニズムとなり,レバー後方に設置されます.

fig5

「信号」改訂16版.p.360.交友社1983より.

さて,図面だけではわかりにくいので,明治19(1886)年発行の”Block and Interlocking Systems”という米国書籍に改良型Saxby & Farmer連動装置の写真が出ていましたので,以下に示します.国産第1号の製作時期と同じですので,この装置がほぼそのままコピーされたとみて間違いないでしょう.

fig6

レバーの後方にインターロック用メカニズムが見えます.神田の交通博物館の展示にはあったのですが,大宮には?

fig7

連動装置が実際に設置された様子です.レバー本数が増えるに従い,メカも大型複雑になっていきます.現在ではこの手の仕事はコンピュータが主役です.

fig8

インターロック部の拡大写真.

昭和40年代の保土ヶ谷駅の線路配線は明治期よりはるかに複雑で,設置当時の連動装置そのものが使われていたとは思えません.しかし,古いシステムが残っていたというのはやはりそれなりの由緒があったということで,思わぬ発見となりました.

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