京葉臨海鉄道 3)ヤード・設備

3)ヤード・設備

 京葉臨海鉄道のヤードは有効長400mで,コキなら20両対応です.タキは長さは短いものの積車21両で1260t(60t×21)となるので,1300t牽引力を考えればやはり20両程度でしょう.

3-1.カーリターダ

 京葉臨海鉄道では貨車の仕訳と省力化のため,今では極めて珍しくなった突放が行われています.突放車両を所定の位置に止めるため,昔の国鉄ヤードではカーリターダ(Car Retarder;車両減速器)が使われていました.これはヤードのハンプ(当て字;坂阜)から下ってくる貨車を所定の場所に停止させるため,フランジをレール内側から挟み込む空気圧ブレーキシューやリニアモーター走行シューを用いる大掛かりなメカニズムでした.構内作業掛員の安全や省力化,仕訳迅速化に貢献するものとして,全国の主要ヤードに導入されていましたがすっかり姿を消してしまい,いまや京葉臨海鉄道にあるものが日本唯一となりました.

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これが現代のカーリターダ.レールに沿って黄色い油圧ダンパが多数設置されています.手前のレールにも取付け穴があけられています.

カーリターダといっても昔のものと異なり,写真のような小型の油圧ダンパをレールに沿って取り付け,転動貨車の車輪内側がピストンを押し込む時に抵抗力を発生させるものです.ダンパの数や間隔,突放速度を調整して所定場所に停まるよう,かなりのノウハウが必要とのことでした.ダンパには通常減速用のものと完全停止用の硬めのもの(アレスタ;arrester)の2種類があり,カーリターダ部末端には逸走防止用に必ずアレスタ型が配置されています.

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カーリターダのクローズアップ.英国製とのことでしたが,メーカー名は分かりませんでした.

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シリンダ部が斜めに設置されており,車輪が来ると回転しながら下に押し込まれて抗力を発生します.

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真横から見るとこんな感じです.列車を引き出すとき,機関車にとっては引き出し抵抗になります.ただし,抵抗力F=CV(C:ダンパ係数,V:速度)なので,ソロソロとゆっくり引き出せば,小さい力でOKです.

 リーターダ部に貨車が入ると,缶をたたくようなカンカンカンという金属音が聞こえ,だんだん遅くなるのが面白い経験でした.

3-2.転轍標識灯

 ポイント屋羽根表示の頂上部にある標識灯です.よく見かけるタイプは,円筒形のランプハウスの小糸工業や渡邊灯器製のものが主流でした.千葉貨物駅のものは角型で,交通システム電機㈱製の高輝度LEDタイプです.同社HPによれば,筐体はステンレス製,5mコード付で従来型とボルト締めにより置き換え可能とのことで,ヤードで見たものは全てがこのタイプでした.

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近代的な角型転轍機標識灯.平成17年9月製,AC100V用です.

3-3.橋梁

 千葉貨物駅の南北には2つの土木遺産的な橋梁があり,それぞれ浜野川橋梁(北側),村田川橋梁(南側)と称されています.もともとは国鉄幹線で使用されていたものですが,建設費低減のため中古品を利用したものです.

年代が古いのは南側の村田川橋梁で,東海道本線の大井川橋梁として昭和33年まで使われました.明治44(1911)年の米国製(アメリカンブリッジ社)で,特筆すべきはピン結合のプラットトラス構造(中央がV字型鋼材配置のトラス)でしょう.

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元大井川橋梁だった村田川橋梁.細い部材を巧みに配置し,編み物か帆船の帆桁構造のようで機構美を感じさせます.京葉臨海鉄道では2013年にコンサルタントに依頼してメンテしたとのことで,102歳とは思えない綺麗な状態でした

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KD55-102が貨車を牽いて来ました.棒状鋼材の結合部をよく見ると,全てピン結合.すなわち各部材は回転可能なため曲げモーメントは発生せず,圧縮と引張応力のみ働きます(材料力学の教科書解説そのもの).曲げに強い大型部材が出現するまで,このような構造がとられました.KD55の後部台車下の枕木は,メンテで置き換えた新品ということです.

 一方,北側の浜野川橋梁の由緒も正しく,信越本線の犀川鉄橋を転用したものです.これはポニートラス構造(上部に左右結合材が無い小型トラス)で,大正8(1919)年石川島造船所(現IHI)製です.

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ありふれたトラス橋に見えますが,御歳95歳.トラスに垂直に補桁が入ってますが,当時の部材の強度上,やむをえなかったのでしょう.

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塗り重ねたペイントで潰れてますが,浜野川橋梁の銘板です.右横書きで,大正八年/株式会社石川島造船所/LIVE LOAD ?? S K 荷重記号?/鉄道院/MATERIALS/UNITED STEEL CAMPANY?/のように見えます.

 歴史的構造物もあり感心しましたが,一方で大事に長持ちさせるメンテのご苦労,重要性もよく分かりました.なにより,先人が長持ちするしっかりしたモノを残してくれたおかげと思います.

4)コンテナ に続く

3 Comments

  1. こんばんは。
    貨物線を意識する機会は少ないのですが、こちらの記事で様々な設備の詳細を知り、興味が湧いてきました。突放での貨物列車の組成を見たことがなく、一度、直接観察してみたいと感じました。
    古い橋梁は丁寧にメンテナンスされているようで、遠くから移設されたあとも健全な状態を保っているのが伝わってきます。身近にある鉄道遺産とも言える橋を見に行ってみたくなりました。
    風旅記: http://kazetabiki.blog41.fc2.com/

  2. よく調べましたね。わたくしもJRで携わっていましたので、たいへん懐かしく拝見させていただきました。有り難うございました。ピントラス構造についての解説はプロ並みです。床構造は実は最も厳しい繰り返し荷重を受けています。一言でした。

    • admin

      2019年1月24日 at 23:08

      こんばんは.コメントありがとうございます.コンテナ世代の若いファンにも分かるようにと蛇足的な書き方をしているので,本職でいらした方にはチョットくどかったのでは,と思ってます.鉄道の設備系を主に調べておりますが,部外者ではわからないことも多く,適宜コメントを頂戴できれば幸いです.今後ともよろしくお願いいたします.

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