新鶴見機関区では秋口になると機関区の公開があり,家族連れでにぎわっていました.あまたの機関車はもとより,台車検修場でのEF65ジャッキアップシーンや,点検蓋が全開されたDE10のボンネット内部を見学することができ,普段見られないメカを観察する貴重な機会でした.機関車以外では操重車が目を引き,新鶴見には事故復旧を目的としたソ80型式88号機が配置されていました.1978(昭和53)年当時ではほとんど活躍機会がなく,機関区内でひときわ大きな図体を持て余しているようでした(無事故で良いことですが).

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ソ88全景.本体の連結器間距離だけで10m,自重83t,扱重65t.キャブの塗装は薄緑に黄色の横帯でした.側面を白く塗られたチキ1187が,長いブームを休める相棒です.こちらは昭和1ケタ生まれ(昭和4~5年製)で,TR20や台枠側面のリベットが時代を感じさせます.1978.11.5

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左側のサイドビュー.昭和40年浜松工場製です.台枠側面には油圧パイプが走り,両サイドにはアウトリガ上下用の操作弁が見えます.後部のガラリはディーゼルエンジンの空気取入口,台枠上の旋回用大歯車も目立ちます.ブームの根元には,作業連絡用スピーカーが見えます.1978.11.5

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チキの前部に乗っている車両吊下用の補助具.屋根のカーブに合わせてあります.実際の吊下には,さらにワイヤと棒材が必要でしょう.1978.11.5

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こちらは現役の天井走行クレーン用吊下補助具.黄色の金具がクワガタのように開閉し,効率的に作業可能.小田急・相模大野工場にて.2010.8.25

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ソ88の妻面.ディーゼルエンジンが見えます.旧ロットのワードレオナード法による直流電動機制御方式に代わり,ソ84以降のロットからはディーゼルエンジンと油圧モータによるクレーン駆動機構となりました.これはトラッククレーンなど,一般建機と同様のメカニズムです.アウトリガは折りたたみ収納式で,展開時は蝶番から1.2mほど外側にはみ出します.1978.11.5

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ソ80のブーム形状の相違略図.初期ロットa)は「くの字」型ブームと主巻,補巻のフックが特徴で,巻上ウインチは3台です.ソ88は一番多いロットb)の1両で,根元と先が細くなった直線ブーム形状をしており,補巻の代わりにブーム先端に小さなフックがついています.最終ロットc)では,ブームがストレートなH鋼製に簡略化されています.※a),c)の形状は,Wikipedia「ソ80」で確認できます

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右側のサイドビューで,こちら側に出入口があります.各台車に1軸ずつ走行用の油圧モーターがあり,作業時の低速走行が可能でした.出入口下の台枠に,外部での走行操作レバーが設けられています.1978.11.5

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重厚な台枠とブーム根元のクローズアップ.4本取ワイヤ2組の滑車でブームを上下します.滑車下には大きなヘッドライトが水平に取り付けられています.傾斜計や機能表などクレーン独自の表記が目立ちます.しかし,架線の下ではどうやって作業してたんでしょうか.事故現場では架線も壊れ上空に支障無し,あるいは事前に取り外し?1978.11.5

1980年代からはじまった操重車の淘汰は世界的な傾向で,鉄道沿線道路網の整備とトラッククレーンの性能向上が背景となっています.現在鉄道用の新形式はロシア圏のみのようで,ラフテレーンクレーンをチキ/シキに乗せたような形状です.