函館市電は交通局と水道局が2011年に合併して企業局となりましたが,市電であることに変わりはありません.新車の導入も定期的に行われており,新旧の車両を乗り比べてみることもできます.今回は台風一過の青空を走行するシーンと,地震当日の車両のいない軌道のレポです.
駒場車庫前
路線東端近くに位置し,本線からT字型に2か所の引込線があります.運転士さんが交代するのも,この停留所です.9/6は台風一過の青空が広がる良い天気.
大きなカーブで構内へと続きます.右方にも同様の引込線があります.電柱の左側には函館馬車鉄道の記念碑が立っており,1897年~を誇っています.
'61年新潟鉄工製の700系ラストナンバー724号と,'93年アルナ製のトップナンバー3001号が車庫横で並んでいました.
車庫内には「函館ハイカラ號」こと39号(1910年天野製なので御齢92歳!)と500系ラストの530号('50年日車製)がお休み中.コーラのラッピング車は'94年アルナ製で,2先輩の前では若僧.
車庫内で使われているポイントはカーブ内側のトングレールのみ動かすタイプで,外側は単なるフランジウェー.黄色いポイントレバーの錘が,モーターピニオンギアの転用で,車庫内のポイントはどこも同じ構造でした.
湯の川停留所
ホーム端でブツッと切れたレール.路面電車の終端は案外こんなものですが,緩衝ゴム付コンクリ制走堤が立派なつくり.
折り返しの9604がお客さんを乗せているところ.
さて震災当日9/6は,函館駅前から十字街経由で函館ドック→函館山沿いに谷地頭→住吉漁港・十字街経由で函館駅前へ.前日の湯川方面への乗車を含め,市電の全ルートを踏破しました.
十字街交差点の様子です.停電で信号機が消えており,ヘルメット被ったお巡りさん2人で交通整理してました.右側にはセブンイレブンがあり,バッテリバックアップのレジが動いていて,水やスナックを買い足すことができました.有難い!
十字街分岐器.カーブ位置側のみの転換で,丸いピボット軸受けが特徴の大同特殊鋼製(★社紋)で,路面電車用定番.
十字街交差点に保存されている操車塔(ポイント切替詰所).子供のころ,横浜市電の南区通町交差点にもありました.形状はこれより角張っていて,六角か八角だったと思いますが,当時でも使われていませんでしたね.
ここでチョット,路面電車のポイント切替の話.昔は上記の操車塔で係員が目視で切り替えてましたが,あまりに効率が悪いということで自動化されました.これが架線に振り子式のスイッチ(トロリーコンタクタ)を取付けたシステムで,大阪市電でS.25年頃に発明され,全国に普及した仕掛けです.タイマー付リレーを組み合わせた巧みなシーケンサで,当時としては画期的な技術でした.
トロリーコンタクタを用いたポイントの自動切換原理図.直進では①②を連続してスイッチングしますが,曲がるときは②前で一旦停止の時間差トリガ.これによりポイントが切換り,③通過で直進に戻ります.でも直進時に②前で車に割り込まれ,5秒たったら切換ってしまいますよね.万一に備え,ホーム末端にリセットスイッチ(③の代わり)もあったのでしょう.
函館ドッグ前
ここもブツッと切れた線路.車止は黄色の自動車用クッションドラムのみで,何とも心もとありません.
反対側の十字街方面を望む.スプリングポイントの単純な一線構造のホーム.
この後,函館山沿いに谷地頭方面に歩きました.途中で地元のオバサンからから「ケータイのアンテナが立たなくなったが故障か」と聞かれたり,函館公園では地震にめげず遠足を強行中の小学生を乗せた観光バスを見かけたりと,珍しい体験をしました.
有名な八幡坂からの摩周丸の眺め.市電が走っているショットを狙いたかったんですが,運休ではどうしようもないです.
谷地頭
改修されたばかりのようで,綺麗な佇まいでした.砂利盛りの車止が見えますが,過去に逸走事故があったということです.
駅の手前は長い下り坂.これでは止まれないこともあったでしょうね.
トングレール接続部が綺麗なポイントで,丸いピボットが無いなぁと思ってよく観察すると・・・.転換ロッド蓋の部分に「Hanning & Kahl」の銘がありました.調べてみると,ドイツ・エルリングハウゼン市在のメーカーで,1898年創立,ブレーキとポイントマシンが主要製品.またホーム埋込タイプのLEDライン照明の発明者でもあるとのことです,
同社カタログ「Point Setting Systems」より引用画像.ポイントマシンが線路間に埋め込まれたタイプで,レール横にある通常の在来型のゴツイ形式とは異なるコンパクトな構造.でも谷地頭のはおそらくスプリングポイントで,動力はないでしょうね.
同社HPはこちら
谷地頭の東側にある住吉漁港に寄り道.岸壁にいたカモメ4羽ですが,地震がどうしたと平然とした姿に脱帽.
車両アラカルト
2001号.1993年アルナ製のVVVF車.駒場車庫付近.
9/4雨の夜,魚市場通りを発車するの3003号,94年アルナ製.2000型に当初より冷房搭載タイプ.五勝手屋羊羹のラッピング車.
せっかくなので,台風小雨夜の市電動画2本です.
8001号の5系統・函館ドッグ行.おでこ表示が変わります(25秒).
8005号の5系統・函館ドック行と9603号・湯の川行@市役所前付近(37秒).
720号.ほぼ筆者と同年配の’61年新潟鉄工製.千秋庵総本家のバター煎餅「山親爺」のラッピング車.駅前で乗車したとたん,木製床の匂いで昔の記憶がよみがえりました.コンプレッサのウ~~トントントン起動音,台車のガラガラ走行音も子供のころの横浜市電みたいで,気分は半世紀前にタイムスリップ.とにかく懐かしかった!駒場車庫前にて.
800型唯一の未更新車812号,62年新潟鉄工製.車体の曲線が昭和風で懐かしい.回送で駒場車庫前まで先行し,スイッチバックして車庫に戻っていきました.湯の川にて.
8005号.'94年に802を更新で,角張った車体に変身.駒場車庫付近にて.
湯の川に停車中の8008号.’97年に809を更新.湯の川にて.
8008号の車内と運転席付近の様子.
'01年アルナ製リトルダンサー9600型のトップバッター9601号.駒場車庫前付近.
「らっくる」の公募愛称の9603号.「楽に乗降,迎えに来る」という理念と,連接の様子がフタコブラクダみたいで「ラックル」とか.
2018年2月アルナ製のピカピカ新車9604号に乗車することができました.交代の運転士さんがホームで待ってます.駒場車庫前.
ラックルの運転台と連接部分の様子です.今風のすっきりしたデザインで,乗り心地もなかなか快適でした.
函館市電はSuica/PASMOなどの交通系ICカードが使えて,JR北海道よりも進化してました.ただし3回以上乗るなら,1日乗車券¥600のほうがお得です.市民の足として,末永く活躍してほしいものです.
3)小樽駅 に続く