高雄市は台湾で第3位の人口277万人を持つ大都市です.台北に次いで2008年に地下鉄が導入され,捷運(MRT)の運行が始まりました.また,2015年からはLRTの試験運行も始まり,都市交通の基盤として鉄道の導入に熱心です.特にLRTは最新のシステムが導入されているということで,仕事場へ通いがてら観察してきました.

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 まずは架線レスの芝生緑化軌道と,最新の車両に驚かされます.軌道は全て溝付きレールで構成され(軌間:1435mm),アルストムのCitadis-X05が走っています.Xはボギーの数ですが,高雄の車両は5車体3ボギーなので305でしょう.同社のカタログを見ると全長は32~37m,750Vで最大速度80km/hのスペックです.鉄道ファン誌8月号のモロッコのLRTにも出てくる車両で,世界のLRTのデファクトスタンダードになってしまった感がありますね.

高雄85ビル(378m)の横を走るLRT.ビルは下層中央部が吹き抜けのある独特の構造で,高雄市のランドマークタワーと言えます.右は路線図で(捷運HPより),縦横に走るのがMRT紅線(レッドライン)と橘線(オレンジライン),これを環状に結ぶ灰色がLRTで,緑の部分のみ暫定開業中.貨物線等の跡地利用で,上手に開発を進めているようでした.

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「前鎮之星站」で交換中のLRT.床が低くてバリアフリーです.

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左手操作のワンハンドルマスコン.前に倒すと前進,後に引くとブレーキ.直感的にはこのほうが馴染みやすく,日本の「力行:後方/ブレーキ:前方」は,世界的にはガラパゴス仕様でしょう.

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広々とした室内で,連結部も幅が広いです.シートはプラ成型品で固く,つり革もベルトなので,長く掴まるとチョイ手が痛くなる感じでした.

“運賃は室内でICカードにより行う方式.もっとも現在は試運転期間中でタダで乗車できます.右のiPassカード(高雄PASMO)をかざしてみましたが,ピッと音がして液晶に運賃が表示されるもNT$0でした.

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道路との交差部に設けられたLRT用信号機.「-」は「停止」,「|」が「進行」現示です.下側の「▲」は「注意」相当で,「|」に変わる前に点滅します.

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現在の終点,「高雄展覽館站」に到着したLRT.この後先へ進み,転線して反対側に戻ってきます.

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転線中のLRTです.この先は建設中.

停留所の様子です.ホーム中央部分にのみ剛体架線があります.前後は導入部で,充電を行う剛体架線は小型レールを逆さまに使用していました.

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LRTの充電の様子です(50秒).停止してしばらくするとパンタが上がり,充電が始まります.PWM音がするのでソレとわかりますが,短い時間でよく充電できるものです.2次電池の進歩はすごいですね.

 さて,車両基地はどうなっているのかということで,東側の終点「輕軌籬仔內站」を訪問してみました.貨物ヤードの跡地に沿って,細長い車両基地が設置されていました.

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「籬仔內站」に到着したLRT.この駅では到着前に線路を渡ってしまい,発車準備完了となります.

「籬仔內站」への到着の動画(35秒).

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「籬仔內站」の反対側にある基地入口を望む.左右どちらに進むか悩み,右に進んだところ,2mぐらいのコンクリ壁が延々と続き途中で断念.炎天下500m以上引き返し,左を進みました.

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「高雄輕軌捷運機廠」の入口です.

塀越しに撮影したラッピング車.職員さんは自転車かバイクで移動していました.留置線の反対側には,きれいな工場があります.

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さてLRTは現在も建設途上で,湿度の高い中,工事が進められていました.

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機廠横にあったバカでかい工事予告看板ですが,街灯や植木がナントモ邪魔.

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MRT「西子灣站」付近で,この秋開業を目指して工事が進められています.完成後は「哈瑪星站」になる予定.コンクリに鉄筋を敷き,枕木部分の鉄筋を組み,レールを載せる方式.

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鉄筋の上に直接レールを置くのではなく,黒いゴムのような緩衝材でカバーしてから敷設し,騒音と振動対策に十分配慮.

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路上に積み上げてあった緩衝材のパレット積み.

 架線レスシステムは線路上の設備がいらないため,コストや環境面で従来の路面電車よりかなりに有利で,経済的に合わないというこれまでの常識を覆すものです.ただ,せっかくLRTを導入しても,道路交通システムとの一体化されないと,車両性能を十分に性能を発揮できませんね.これは岡山電軌のMOMOに乗った時に痛切に感じたことで,交差点の信号ごとに短距離で停車させられ,せっかくのLRTなのになんて鈍足なんだとイラついた覚えがあります.高雄LRTでは信号が「-」でも電車が来るとすぐに「|」に変わったので,LRT優先信号となってるのでしょう.なんにしても,最新のLRTを素早く導入する行政の対応が羨ましく,また,LRTを都市インフラとして丸ごと売り込むヨーロッパ企業のしたたかさに感心しました.ウチの近辺にも是非欲しいものです.

MRT

 市の中央部「美麗島站」でクロスする紅線,橘線の2線です.紅線は高鐵の新左營駅や高雄駅に直結しており,日本からの旅行の際にお世話になることが多いでしょう.どちらもジーメンス製のステンレス3両編成で,ラッシュ時はちょっと窮屈でした.日本語のアナウンスが入るので,東京メトロにでも乗っているような感覚でした.

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紅線のジーメンス製車両(1000系でいいのかな?).1435mm,750Vと標準的ですが,第3軌条は日本のものより小型のレールを使用しているように見えました.南岡山站にて.

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「南岡山站」ホームの反対側は,台鉄の線路が走っており,一つ先の「岡山站」まで延伸,接続予定.

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典型的な地下駅の構造の「三多商圏站」.台北地下鉄と同様に吹き抜けのホームとホームドア,上部通路で構成されています.エスカレータは大阪流に左空け方式.

自動改札機のタッチ部分.左は入場用の平らなセンサ.右は出場用で,トークンを入れやすいように独特の山形構造で,台北MRTとも異なる形状.カードは近づければOKですが,どこにタッチすればいいのかチョット戸惑う形状ですね.なお,台北MRTの悠遊カードも使用可能ですが,高雄MRTの駅ではチャージできません.SuicaやPasmoのような全国展開に期待したいところです.

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運転席後部はゴッツイ扉で仕切られ,前は見えません.「SIEMENS」の銘板が,ご丁寧にも2枚光っています.台湾の人はアニメがかなりお好きなようで,一般の広告のみならず,捷運のキャラまでいました.

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スタンションポールの立ち並ぶ室内の様子.なお,自転車持ち込み可で,ラッシュ時でもマウンテンバイクを持ち込む人がいたのにはビックリ.

高雄まで来て小田急のコラボ車に出会うとは思いませんでした.ドアにラッピングされた小田急・新宿のシール.反対側はナント江ノ電で,鶴岡八幡宮.日本語の車内放送とも相まって,ウ~ム,ここは日本か?

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3)打狗鉄道故事館 に続く